東法人会 №90
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文化探訪   シリーズ⑦公益社団法人岡山県文化連盟アドバイザー 曽田 章楷 西川は農業用の水路です。新大原橋の上流にある旭川の合同堰から水を取り入れ、岡山市街の中心部を通って下流の農業地域(福田・浦安など)に農業用水を供給する全長16㎞に及ぶ用水です。「西川緑道公園」は、西川両端の道路を一車線に狭(せば)め、川には親水スペースを設けるとともに、およそ100種類の樹木約3万8千本を植樹し、人々の憩える空間へと9カ年をかけて改造したもので、1982年に完成しました。県外の自治体からも注目を集め、小生もご案内した覚えがあります。緑道公園にはメタセコイア(和名アケボノスギ)が散見されます。メタセコイアは新生代第三紀(6,500万年前~200万年前)に栄えていた植物で、日本の石炭の大半はこの木だそうです。 閑話休題。メタセコイアは絶滅されたと考えられていましたが、化石研究者の三木茂博士の論文を基に1946年に中国四川省(現在の湖北省)で神木として崇拝されているメタセコイアが見つかり、「生きた化石」として一躍有名になりました。米国カリフォルニア大学古生物学科教授のラルフ・W・チェイニ-博士からメタセコイアの苗木・種子が金光教徒の福田美亮(よしあき)に託され、そして1949年に昭和天皇に献呈され皇居に2本植えられたのが我が国のメタセコイアの嚆矢(こうし)とされています。1987年の歌会始で昭和天皇は「わが国のたちなほり来し年々にあけぼのすぎの木はのびにけり」と詠われました。正しく、日本はメタセコイアとともに成長を遂げてきたのですね。岡山県では京都大学演習林研究室が培養していた苗を育成し、1955年県営野球場外苑に植栽されましたので、60年、還暦を迎えたことになります。母校の県立岡山朝日高等学校や岡山操山高等学校高校の校庭にも悠然と聳え、県庁舎南の旭川右岸や土光敏夫先生記念苑にもあります。夏休みの自由研究に県下のメタセコイアの分布を調べてみるのも面白いかもしれませんね。 さて、西川を少し遡った北区南方に吉備路文学館があります。1986年創設ですから30年になります。坪田譲治・内田百閒から、あさのあつこ・小川洋子・重松清などの現代作家まで、岡山出身またはゆかりの文学者の著書、原稿、書簡などが展示され、ユニークな企画展示が行われています。回遊式の「北泉庭」の疎水は、西川より引き入れており、水路を通って再び西川に戻っています。庭園内の滝は、津田永忠の設計による吉井川「田原井堰」の敷石を譲り受けて作ったものです。鬱金桜の開花時に開催される茶会も有名ですね。 更に西川の上流に向かうと岡山市の三野浄水場があります。ここは横浜、函館などに次ぐ全国8番目の近代水道です。開業当初の各施設が良好に残されており、しかもその多くが現役で稼動しているのが特徴です。1985年にオープンした岡山市水道記念館は水のミニ科学館で、建物正面上部には「坎徳無窮(かんとくむきゅう)」(水の徳は永遠に変わることなく続く)の扁額があります。記念館は1905年の通水開始時に作られた旧送水ポンプ室を改造したもので、2005年には京橋水管橋などと共に有形文化財に登録されています。往時を偲ばせる美しい赤煉瓦造りの洋風建築は一見の価値があり、お出かけになってはいかがでしょうか。メタセコイア吉備路文学館岡山市水道記念館西川を北へ--13

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