東法人会 №89
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文化探訪 シリーズ⑥くらしに文化を公益社団法人岡山県文化連盟前顧問 曽田 章楷 文化とはなんだろう。1970年代後半から物の豊かさだけでなく、心の豊かさを求めようということで、全国的にも文化行政に予算を投入する傾向が顕著になり、岡山県でも長野知事の時代、1980年頃から意識されはじめました。その一つに『文化アセスメント』があります。文化の物差、文化の視点で物事を考える「アセスする」という試みです。県のすすめる行政のうち、分かりやすいのが建設関係で、例えば、橋や道路を建設する際に地域の特長などを生かした文化的なものが取り入れられていきました。橋梁の欄干(親柱)には、赤磐市内では桃、新見市内では千屋牛の碁盤乗り、備前市内では閑谷学校に因んだ石塀などが登場しています。また、岡山市内を流れる西川では岩田町と富田町に通じる後楽園通りに丹頂鶴が翼を広げた小さな橋(青柳橋)が平成7年8月に竣工されました。 桃太郎大通りを見てみましょう。まず、電線は地下に埋め込まれ(地中化)、景観がすっきりしています。街路樹も意識的に植えられ、柳川交差点には、楷(かい)の木が植えられています。そして、注目すべきは彫刻です。桃太郎、猿、犬、雉(キジ)が各4体ずつ、計16体が1981年に設置されました。作者は芸術院会員の蛭田(ひるた)二郎先生です。蛭田先生ご夫妻にお伺いしますと、当時、長野知事から「岡山には鬼はいないから鬼は置かない。桃太郎は利発で可愛く健気で健康で明るい子のイメージで」と依頼されたそうで、その桃太郎像を具現化するのに苦心を重ねられたそうです。蛭田先生はまた、「雉の尖(とが)った尾羽で子どもたちが怪我をしてはいけませんのでデザインには思い切って変化を持たせました。猿はイメージを求めて神庭の滝にも行きました。犬は伊勢﨑淳先生の飼い犬かな」と述懐されています。16体の彫刻作品との出会いに出かけてみませんか。 岡山シンフォニーホールから南へ延びる約1キロメートルの通りが「オランダ通り」です。道路は車のスピードが出ないように屈曲してジグザグとなり、レンガも敷き詰められ、フラワーボックスやベンチも設置されています。いわば、歩行者優先の歩いて楽しく心地良い空間となっています。 このように私たちの生活を取り巻く空間が少しずつではありますが、居心地のいいものになってきています。狭いながらも、室内に、岡山の香りが感じられる陶磁器やガラス、季節感溢れる果物・野菜や草花、そして書や絵画・彫刻などが、一品でもアレンジされるだけで文化的なゆとりやうるおいを感じます。願わくば、心の豊かさを求めて、その文化的なものの質を刺激し合い、高めながら。後楽園通りの丹頂鶴可愛い桃太郎歩行者に優しい道--13
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